小説・ss

ダスト

いけだ, 2021/04/22 00:27

 天空に舞い上がる間欠泉。それは地上の星々を舞い上げ、つかの間、空中にとどめる。そして、それらは時を経て、ゆっくりと地面に落ちてくる。流れ星たちの中、店長はじっくりとそれを見上げる。
 星々は瞬き、そして、一瞬の生を謳歌すると、あるものは直前で燃え上がり忽然と消え、あるものはゆっくりと時間をかけて消える。地に落ちるとそれは小さなビー玉となり、再び光を得て、空中に舞い上げられる。
 永遠回帰の中で佇む店長は笑みを浮かべているが、どこか寂寥感のようなものを湛える。ひとしきり繰り返されたそれから目を離し、少しだけ伏し目がちに地面を見つめる。地面には先ほど光と熱を失ったガラス玉が無数に散らばっている。そのうちの一つを手に取り、ふっと息を吹きかける。するとガラス玉は再び光を灯してふわりと宙に舞う。
 一人遊びのようなそれを3度ほど繰り返して、ふと自分に注がれた視線に気が付く。それは地面に転がる一つのビー玉。まだ光を宿したことがない、純粋無垢なそれから注がれる熱狂にも似た視線を真っ向から受ける。そして、いたずらっぽく笑みを浮かべると、口の前で人差し指を立てる。
 口から漏れ出す音で動きを制止した店長はそっと耳元に手のひらを当てて、音に集中する。無音に近いこの場所だが、かすかに揺れる炎の音や空中でこすれあう光たちの音がわずかに耳に入る。
 「君が目覚めるのはもっと先。だけど、明日のこと。それは昨日の未来を反映し、明日の太古の習わしでもある。」
 口から洩れた涼やかな詠唱に間欠泉はぴたりと止まり、あたりは真っ暗な闇に落とされる。だが、店長にはわかっていた。これは地面にまだまだあり、そして、天空はまだ飽き足りていないことに。
 わかったことに目を向け、そして、満足げに岩陰にあった扉を押し開く。その向こうはいつもの〇〇荘。店長を包む暖かい空気にほっと胸をなでおろし、扉をくぐる。
 「あ、店長。お疲れ様です。」
 「ただいま、少年。いけださん。」
 サロンにはいつものメンツがいつものように集まっている。何も言わないままコーヒーの入ったマグカップを差し出した先生は、店長の手にくすんだガラス玉が握られていたことに気が付く。
 「おや、レイくんさん。それは?」
 自分でも気が付かないうちに手の内に入っていたそれに、店長は心の中で、いたずらっ子めと少しだけ悪態をつき、クスリと笑う。
 「未来だったものだよ。」